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アメリカの友人
Der Amerikanische Freund


制作年 1977 Scene1
邦題アメリカの友人
原題Der Amerikanische Freund
ジャンルドラマ
時間 126分
フイルム 35mm
カラー カラー
製作国西独=仏
製作会社ロード・ムーヴィーズ/ヴィム・ヴェンダース・プロダクション/レ・フィルム・デュ・ローザンジュ/WDR
原作パトリシア・ハイスミス「リプレーのゲーム」
製作ミヒャエル・ヴィーデマン<Michael Wiedemann>/ビエール・コトレル
監督ヴィム・ヴェンダース<Wim Wenders>
脚本 ヴィム・ヴェンダース<Wim Wenders>
撮影ロビー・ミュラー<Robby Müller>
編集ペーター・ブルツィゴッダ<Peter Przygodda>
音楽ユルゲン・クニーパー<Jürgen Knieper>
出演デニス・ホッパー<Dennis Hopper>(リプレー)/
ブルーノ・ガンツ<Bruno Ganz>(ヨナタン)/
リザ・クロイツァー<Lisa Kreuzer>(マリアンヌ)
ジェラール・ブラン<Gerard Blain>(ミノ)/
ニコラス・レイ<Nickolas Ray>(デルワット)/
サミュエル・フラー<Samuel Fuller>(マフィアのボス)
ダニエル・シュミット<Daniel Schmid>(マフィア)


■ 内容

トム・リプレーがニューヨークの老画家を訪れる。画家はトムの注文で何年も前に死んだはずになっているデルワット本人だが、ボガッシュと名乗っている。ボガッシュはデルワットの晩年の画を描き続けている。本人が自分の贋作を描いているのである。それをトムはヨーロッパの画商の競売に忍び込ませて売りさばいている。
リプレイはハンブルグの美術商ガントナーのところで画を売ろうと持ってきた。オークションで「青が違うから贋作だ」と言って画商のアラン・ウィンターに思いとどまらせようとしている男がいる。それが額縁作り職人のヨナタンだった。リプレイは彼を紹介されるが、ヨナタンの方は握手を拒否する。リプレイは気を悪くするが、ガントナーから彼が白血病にかかり治療に莫大な金がかかっていること、腕は良い職人であることを聞かされる。
夜、リプレイがエルベ河畔の広大な邸宅に帰って来ると、昔なじみのミノが訪ねて来る。フランスのマフィアで一匹狼の男だが、パリでマフィアを一人殺すために、足のつかない素人を捜している。
ヨナタンの仕事場にリプレイが訪れ、額縁を注文する。オークションのときの非礼を詫び、おもちゃをプレゼントする。カナダに行ったアラン・ウィンターからヨナタンへ電報が来る。ヨナタンの病状が悪化したと聞き心配している、といった内容だった。自分では特に悪化した覚えはなく、アランが医者から聞いたのか、ヨナタンは不安になり、医者に確認しに行く。医者は特に悪くはなっておらず、誰にも病状について話した覚えはないと言う。ヨナタンはガントナーが噂を流したのではと推測し本人に詰問するが、否定される。
店に戻ったヨナタンをミノが待ちかまえていた。地下鉄へ誘い、「おまえの先は短い。25万マルクの報酬でパリの地下鉄で人を殺せ」と言う。リプレーがミノにヨナタンのことを話したのだった。ヨナタンはもちろんそうとは知らない。驚いて断るが、不安になって再検査を受ける。自分の余命を知りたがるヨナタンに、医師はあと5年かもしれないし、1ヶ月かもしれないと言う。
朝、フランスの金と連絡先の入った封筒が投げ込まれている。ミノは「パリに来れば血液学の権威に診せるから、その結果を見て引き受けるかどうか決めれば良い」と言う。結局ヨナタンはパリに向かう。病院で検査を受け、結果が悪かったために、ついに仕事を引き受けることにする。パリの地下鉄で標的の男を教えられて後をつけ、人気のない駅で撃った。
リプレーが額を受け取りにヨナタンの店に行く。まだ出来ていなかったが、奥のアトリエを見せた。ミノは再度ヨナタンへミュンヘンの医者の話をし、殺人を依頼した。リプレーはミノからヨナタンへ二度目の依頼について聞き、危険だと反対する。額を受け取りにヨナタンの店に行き、明日画の修復に来てくれと頼むが、旅行に出ると断られる。
Scene2 今度はミュンヘンから発車する列車の中での殺人だ。ヨナタンは失敗しそうになったところを突然現れたリプレーに助けられる。気になったリプレーがヨナタンを守るために同じ列車に乗ったのだった。
ヨナタンの部屋にミノが忍び込み、マフィアにかぎつけられたらしいと言う。ヨナタンはリプレーが一緒だったことを明かしてしまう。リプレーの屋敷でヨナタンと二人、マフィアの襲撃に備える。ヨナタンが忍び込んだ男を殺し、マフィアのボスはヨナタンを追うが、階段から落ちて死ぬ。死体と救急車の始末をしようとするところへ、ヨナタンの妻マリアンネがやって来る。救急車に死体を乗せ、ヨナタンはマリアンネが運転するワーゲンで海に向かう。リプレーは早朝、冬の人気のない浜辺で救急車にガソリンをかけ、爆発させる。帰りの足のためについて来させたワーゲンだが、ヨナタンはトムを置き去りにする。
家路を急ぐヨナタンだったが、斜線をはずれ、路肩を飛び越える。マリアンネがサイドブレーキをひいて急停止させる。ヨナタンは心停止していた。

■ 感想

パトリシア・ハイスミスの「贋作」の冒頭と最後のデルワットの部分+「リプレーのゲーム」に基づき、ヴェンダースが脚色した本作。リプレーの妻を排除したり、ヨナタンの性格を変えたりといろいろと手を加えたようだ。ヴェンダースは元々パトリシア・ハイスミスが好きで、ペーター・ハントケを通じて会うことが出来た。既刊書の権利は獲得できなかったが、出版されたばかりの映画化権を得ることができた。それがこの「リプレーのゲーム」で、「太陽がいっぱい」のトプ・リプレーその後の話である。
この映画を作る前、「さすらい」の後の頃だが、ドイツ映画作家協会とはいわば互助組織のようなもので、ヴェンダースも参加して資本を提供し、お互いに資金を回し合おうというような組織だった。それが負債超過してしまい、機能しなくなった。そこでヴェンダースは思いっきり商業的に成功する必要性があったのだ。そのためにはまずは潤沢な資金。これをを手に入れることができた。と同時に「さすらい」のようなシナリオなしでの作業に疲れ、映像作家として純粋にチャレンジしたくなり、がっちりした原作のある映画を作りたくなったのだった。

「アメリカの友人」は個人的にヴェンダースのベスト3に入ると思っている。サスペンス映画だが、アーティスティックで美しく、繊細で楽しめる娯楽作品で、魅力満載なのである。誰にでも気軽に勧めることができる作品が一つでもあることは、実際ありがたいことだ。

何と言ってもあの映像美。印象的な赤(フォルクスワーゲンの赤、マリアンネの服の赤、リプレーの部屋の色)、黄色(ダニエルのレインコートの色)、ハンブルクの街の青など。フィルターがかかったかのような映像だが、カール・ツァイスのレンズを利用し、自然光と照明をうまく組み合わせた結果だそうだ。ロビン・ミュラーの腕が光る。

登場人物の設定と役者も良い。デニス・ホッパーは1950年代の若い頃、1960年代末頃の「イージー・ライダー」の頃や「ブルー・ベルベット」で再ブレイクした後より、この頃が一番かっこいい。リプレーの孤独で非常な悪党だが、繊細で人なつこくお人好しな面をうまく出している。ブルーノ・ガンツはこの作品が初のヴェンダース作品となるが、朴訥で無骨なようでいて、優しく優美な感じが出ていて、不思議な俳優だと思う。後々、天使になるのも理解できる。本来住む世界が違う筈の男二人の不思議な友情が物語の軸となっていて、それぞれが、それぞれの領域に入り込んでいく。孤独な一匹狼のリプレーがヨナタンの家族がある、静かな生活をうらやみ、ヨナタンは妻子のために危険な仕事に手を出す。

そして、ストーリーも良い。誰が見ても退屈はしないと思う。特に2件の殺人のシーン。普通のサスペンス映画なら、あるいは殺し屋が出てくるようなマフィアの話なら、もう少し殺人はスマートだろう。これは素人なのでとてもお粗末だ。だからこそヒヤヒヤ、ハラハラして夢中になって見てしまう。殺人の場所あるいは殺人のための追跡場所は両方とも列車である。地下鉄の乗り換え駅での緊迫する追走劇や、列車内から落とす際の泡をくった感じのバタバタが、妙におかしく、それでいて緊張して見られるので、面白い。

映画に関するこだわりというか、見方によっては楽屋落ちが多いのもヴェンダースの特長で、それがこの作品はもっとも多いかもしれない。まず、デニス・ホッパーに自ら出演・監督した「イージー・ライダー」のテーマ曲「イージー・ライダーのバラード」を歌わせてみる。それから、映画監督を数人配役する。ホッパーも監督だが、ミノ役のジェラール・ブランも監督だ(日本では俳優としての方が有名だが)。画家デルワットに「理由なき反抗」のニコラス・レイ、マフィアのボスに「ホワイト・ドッグ」のサミュエル・フラー、背の高いマフィアの男にペーター・リリエンタール、ヨナタンに殺されるマフィアの男に「デ・ジャ・ヴュ」のダニエル・シュミットを起用。その理由をヴェンダースは「マフィアのように生も死も簡単に扱える人間といったら映画監督しかいない」と言っている。

ヴェンダース作品の音楽を多く担当しているユルゲン・クニーパーだが、「アメリカの友人」が一番良いと思う。なんと言っても緊迫感があるし、音の冷たい感じがフィットしているように聞こえる。他の作品だと少しうるさい感じのときがあるが、ここではそんなことはない。

「アメリカの友人は」ヴェンダースを一気にメジャーに引き上げた。ハリウッドからの注目を浴びてアメリカにわたることになる。その後、作品の作り方が大きく変わっていくが、変わらないところも多数ある。それがらしいと言えばらしい。


1977年10月 東京ゲーテ・インスティトゥート提供/再公開 1987年6月 フランス映画社
1977年連邦映画批評賞、1978年ドイツ映画賞
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