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ゴールキーパーの不安
Die Angst des Tormanns beim Elfmeter


制作年 1971 Scene1
邦題ゴールキーパーの不安
原題Die Angst des Tormanns beim Elfmeter
ジャンルドラマ
時間101分
フイルム 35mm
カラーカラー
製作国西独
製作会社映画作家協会(PIFDA)/オーストラリア・テレフィルム
原作ペーター・ハントケ<Peter Handke>
監督ヴィム・ヴェンダース<Wim Wenders>
撮影ロビー・ミュラー<Robby Müller>
編集ペーター・ブルツィゴッダ<Peter Przygodda>
音楽ユルゲン・クニーパー<Jürgen Knieper>
出演アルトゥール・ブラウス<Arthur Brauss>(ヨーゼフ・ブロッホ)/
エリカ・プルハール<Erika Pluhar>(グローリア)/
カイ・フィッシャー<Kai Fischer>(ヘルタ・ガブラー)/
リープガルト・シュヴァルツ<Libgart Schwarz>(アンナ)/
マリー・バルディシェヴスキ<Marie Bardischewski>(マリア)/
リュディガー・フォーグラー<Rüdiger Vogler>(村の白痴)


■ 内容

ヨーゼフ・ブロッホはプロのチームに所属するサッカー選手でゴールキーパー。ウィーン遠征での試合でオフサイドをめぐって審判ともめ、退場になってしまう。何故か彼はチームと行動を共にせず、試合中にもかかわらず試合会場を離れてしまう。
映画を見、安ホテルに一人宿泊し、二人組に殴られたりしながら、街をぶらぶらとしている。映画館のチケット係であるグローリアと親しくなって飛行場の近くにある家に泊まりに行く。一夜明け、朝食を共にしたところで唐突にグローリアを絞め殺す。そして特に動揺する様子も見せず、指紋を拭き取り部屋を後にする。
ウィーンを引き上げバスに乗って国境の町へ向かう。小さな村に夜到着し、そこにあるホテルに宿泊。翌日昔なじみのヘルタがやっている居酒屋へ向かう。その村にとどまることにしたブロッホだが散髪したり映画の上映会に行ったり、居酒屋で隣合った男と喧嘩をしたり、と毎日ぶらぶらするだけで特に逃げようともしない。そんな中散歩をしていると、偶然その土地の人間が行方不明だと騒いでいた聾唖の子供の死体を見つける。
警察がグローリア殺人の犯人の新しいてがかりを発表した。アメリカの硬貨があったというのだ。それはブロッホがアメリカ遠征の際使い残した硬貨をグローリアの部屋に忘れて行ったのだった。しかしまったく動じない。
偶然サッカーの試合をやっているのを見つけ、見に行く。隣の席の中年男に話しかける。「ペナルティキックのとき、ゴールキーパーはどこに飛んでくるかわからない」という不安について語る。


■ 感想

ヴェンダースの劇場用長篇映画第一作。卒業制作の「都市の夏」は学生時代の作品なので、いくら長篇であっても、私の中ではやはり実験映画時代に分類したいと思う。本人も「都市の夏」はいわば最後の短篇映画だと語っている。

内容は一応サスペンスなのだが、まったくといっていいほどサスペンスっぽくない。動機の見えない殺人を犯した犯人が一応旅するのだが逃亡というわけでもなく、淡々と映画が進行する。

そもそも原作者のペーター・ハントケを知らない人は観てもしょうがないと思う。しょうがないというか、わけがわからいのではないかと思う。原作の「不安―ペナルティキックを受けるゴールキーパーの…」は絶版になっており、古書市場でも滅多に見ないため、どうしても読みたい場合は図書館にしかなさそうだ。

もちろん、ヴェンダースはハントケとは違う視覚から描いており、批評家からは当時「違うことに意義があり」という声と「わざわざ映画化する意味がない」という批判と両方出たそうだ。いずれにせよ、元々が実験的な小説なので映画単体で観ても理解に苦しいだろうなと思われる。

まだ実験映画時代の流れで撮影されており、アメリカ映画の文法に慣れた日本の観衆に鑑賞が耐えうる劇場用映画ではない。最初はテレビ放映だったそうだが、よくこんなものテレビで流したもんだと思ったら、オーストラリアの製作会社はよくわからないで、サッカーの映画だと思ってゴールデンタイムにかけたそうだ(笑)。当然理解されなかった。その後一応は劇場にかけられ、アメリカの映画祭にて特別上映もされたそうだ。それにつけても、ありがたいことなんだが、よくDVDにしてくれたもんだ。

後々のヴェンダース作品を理解する上では注目すべき点がいくつかある。この作品がヴェンダース自身が自分の映像言語を確立するための第一歩だったことが伺える。

1. 映画や音楽へのこだわり
音楽というよりはジューク・ボックスと言った方が良いだろう。主人公はどこへ行ってもジューク・ボックスをかける。短い時間しかないのにかける。主人公が柱の影にかくれてしまい、ジューク・ボックスが主役か?と思われるくらい執拗にカメラが追っている。
また、映画館への出入りも頻繁。田舎に行けば映画館がなければ上映会に顔を出すというしつこさ。

2. メディアへのこだわり
テレビ、ラジオ、新聞が頻繁に使われる。特に新聞は自分の起こした事件が気になるのか主人公が常に「新聞は?」と聞いて回るが、じゃあそこに自分の似顔絵が出ていたとしても何か行動を起こすわけではない。だから事件に対する反応としての新聞へのこだわりではなさそうだ。むしろテレビやラジオも頻繁に登場し、付けたり消したり主人公の行動は落ち着かない。

3. 旅へのこだわり
ウィーンから国境の町まで行くバスの旅が出てくる。バスターミナルの自販機、途中休憩所、到着地のバス停等々、当時のドイツの旅では必須の風景だったのだろう。

リュディガー・フォーグラーが白痴の役で出ている。もうすでにして髪が薄い…


1984 東京ドイツ文化センター ヴィム・ヴェンダース特集
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