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リズボン物語
Lisbon Story


制作年 1994 Scene1
邦題リズボン物語
原題Lisbon Story
ジャンルドラマ
時間104分
フイルム35mm
カラーカラー
製作国独=葡
製作会社ロード・ムーヴィーズ・フイルム・プロダクション/マドラゴア・フィルムズ
製作ウルリッヒ・フェルベルグ<Ulrich Felsberg>/パウロ・ブランコ<Paulo Branco>
監督ヴィム・ヴェンダース<Wim Wenders>
脚本ヴィム・ヴェンダース<Wim Wenders>
撮影リサ・リンズラー<Lisa Rinzler>
編集ペーター・ブルツィゴッダ<Peter Przygodda>/アンヌ・シュネー<Annue Schnee>
音楽マドレデウス<Madredeus>/ユルゲン・クニーパー<Jürgen Knieper>
出演リュディガー・フォーグラー<Rüdiger Vogler>(フィリップ・ヴィンター)/
パトリック・ボーショー<Patrick Bauchau>(フリードリッヒ・モンロー)/
[マドレデウス]テレーザ・サルゲイロ<Teresa Salgueiro>(テレーザ vo.)/
ペドロ・アイレス・マジャルハス<Pedro Ayres Magalhães>(ペドロ g.)/
ロドリゴ・レアオ<Rodrigo Leão>(ロドリゴ k.)/
ホセ・ピショット<José Peixoto>(ホセ g.)/
ガブリエル・ゴメス<Gabriel Gomes>(ガブリエル accordion)/
フランシスコ・リベイロ<Francisco Ribeiro>(フランシスコ cello)/
ヴァスコ・セケイラ<Vasco Sequeira>(トラックの運転手)/
リカルド・コラレス<Ricardo Colares>(リカルド)/
ジョエル・フェレイラ<Joel Ferreira>(ゼー)/
ソフィア・ベナルド・ダ・コスタ<Sofia Bénard da Costa>(ソフィア)/
ヴェラ・クーニャ・ローシャ<Vera Cunha Rocha>(ヴェラ)/
エリザベーテ・クーニャ・ローシャ<Elisabete Cunha Rocha>(ベータ)/
カント・エ・カストロ<Canto e Castro>(床屋)/
ヴィリアト・ジョゼ・シウヴァ<Viriato José da Silva>(靴屋)/
ジョアン・カニージョ<Joaõ Canijo>(詐欺師)/
マノエル・デ・オリヴェイラ<Manoel de Oliveira>(特別出演)


Scene2
■ 内容

長旅からフランクフルトに帰って来た録音技師フィリップ・ヴィンターは親友の映画監督フリッツ(フリードリヒ・モンロー)から届いた絵はがきを見つける。「SOS、サイレントでは続けられなくなった。録音機材をもってリスボンに来てくれ」とある。足の怪我をおして車でドイツからフランス、スペインを経てポルトガルへ。EU統合で国境のなくなったヨーロッパの旅は快適だが、国境近くで車が故障してしまってしまうと大変だ。廃墟となった税関は無人で電話もない。
それでもヴィンターは何とかリスボンに辿り着くが、家にフリッツはいない。編集機に手つかずの撮影済みフィルムが残されている。サイレント時代の手回しカメラで撮影された、今世紀初頭のような映像で、リスボンの市電や駅の構内が撮されている。
フリッツの家にいると、どこからか美しい歌声が聞こえてくる。行ってみると、同じ家の中でマドレデウスがリハーサルをしていた。演奏しているのはフリッツに頼まれて彼の映画のための音楽だと言う。
翌朝、ヴィンターは音を取りに街に出る。街のざわめきや教会の鐘の音、飛び立つ鳩の羽音。フリッツの映像を見て採る音の検討をつけながら、その中に彼の行方を探るヒントが隠されていることに気づく。
マドレデウスのメンバーはブラジルまで長いコンサート・ツアーに出るため、これ以上フリッツを待つことはできない。ヴォーカルのテレーザはフリッツの家の鍵をヴィンターに預ける。

Scene3ある日足のギブスが取れてコーヒーを飲むヴィンターの耳に突然フリッツの声が聞こえる。ビデオ・カメラをつるして背後に向けて撮影しているようだ。後を追ってフリッツをつかまえると「映画の撮影はとっくに断念した。返事がないので君は来ないものと思っていた」と言う。そしてヴィンターを廃墟になった映画館に案内し、自分の夢を語る。映画が生まれた頃のまなざしで映画を撮りたい。だが映画の純粋さを取り戻すには誰の意志にも左右されない映像を撮ること。そのためにはファインダーさえのぞかずに撮影し、撮ってもそれを見ないことだ、と。フリッツは狂気に侵されていると感じたヴィンターはビデオカメラにメッセージをこめて彼の目を覚まそうとする。「君のやっていることは映像のゴミ集めだ。もう一度、自分の目を信じ、人の心を動かす映画を取り戻すんだ。」
手回しカメラをもったフリッツと録音機をもったヴィンターの二人はリスボンの街で撮影を始める…。

■ 感想

「ヴェンダースの原点回帰」などというコピーがつけられている。それはどうかわからないが、好きな映画だ。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」はドキュメンタリーだから除くとして、物語の映画としては、これは1990年代で一番良い作品だと思う。
これで5度目のフィリップ・ヴィンター役のリュディガー・フォーグラー、「ことの次第」で死んだ筈の映画監督フレデリック・モンロー役にずいぶん老けたパトリック・ボーショーと昔の仲間と楽しそうに映画を撮っているのがよくわかる。当初はリスボン市の依頼により、リスボンのドキュメンタリー映画を撮るつもりが、リスボンでドキュメンタリー映画を撮る人の話にしてしまったヴェンダース。映画100年を記念したお祝いの映画で、明るく、コメディタッチの作品に仕上がっている。長年暖めていた大作を撮って、それが不評だった。そこで肩の力を抜いて原点に帰り、映画を撮ることを楽しむ、その思いが画面にあふれているようなロード・ムービーだ。
出だしから快調にすっとばす。欧州統合で国境のなくなったヨーロッパ。フランクフルトからリスボンまですっ飛ばす車内からの画像に気分をよくさせられる。ポルトガルまであと一息のところでパンクしてしまい、やむを得ずタイヤ交換をするが、橋の上に新品のタイヤをおく。この時点で予想がつく。パンクしたタイヤからささった釘を抜き、川に捨てようとして、新品のタイヤをつい落としてしまい、呆然とするヴィンター。
録音技師が映画監督の元に走る。それだけで、また「映画についての映画」だなとわかる。やっとの思いでリスボンの映画監督の元にたどり着いたのに、本人が失踪。録音技師なので、音を作るための様々な小道具をもって来ている。馬の蹄の音やフライパンで卵を焼く音などを子供たちに教えるシーンが、個人的には非常に懐かしい。学生の頃教わった作り方、そのままだ。
実際に録音された音も鮮明に町の音をとらえて、素晴らしい出来だ。風景を音で見る、ということができるのは、私は知っている。ゼンハイザーのマイクにソニーのDATも嬉しい。画像を撮影するのは手回しカメラというのがミスマッチで面白い。
ポルトガルのフォルクローレバンド・マドレデウスが登場するリハーサル・シーンはその辺のプロモーションビデオより遙かに格好いい。正直、この女性ボーカルはあまり好みではないが、バックの演奏はとても好みだ。
加えて、ポルトガルの現代詩人フェルナン・ペソアの詩もうまく織り込まれている。結局こういうリリカルな言葉の使い方、音の使い方。音楽、映像もすべてリリカルだ。それがヴェンダースなんだと思う。

しかもテーマは相変わらず「見ること」「純粋なまなざし」といったヴェンダースのライフ・ワークだ。率直に言うと、いい加減離れればいいのに。

映像は見られることによってのみ現れる。見られることで存在する。映画は私たちの目なしに存在し得ない。

ラストは「もっとピュアに映画作りたいなー」というヴェンダース心の叫びが感じられる。いい感じのエンディングだ。


1995年8月26日 フランス映画社配給
1995年カンヌ映画祭正式出品〈ある視点〉特別招待作品
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